東京都心から船で24時間、太平洋上を南に約1,000km進むと現れる小笠原諸島。30余りの島々からなる小笠原には、母島という島が存在します。
豊かな自然に恵まれた母島の周りには、透き通った青い海が広がります。その美しさは、別名“ボニンブルー”と呼ばれるほど!
母島には、この抜群の海を生かしたちょっと変わったお酒があるんです。それが「海底熟成ラム Mother(マザー)」。
「え、海底熟成…?」と思った方。そう、その名の通り、ラム酒をこの綺麗な海に沈めて熟成させているんです。2014年に島の観光協会が発案し、今では知る人ぞ知る銘酒になっています。
今回は、そんな「海底熟成ラム Mother」と、それを生み出す母島の海の魅力を、編集部のゆかりごはんが取材。ラム酒の誕生秘話や、その良さを広めるために様々な活動を行っている観光協会の方にインタビューを行いました。
料理人が考案したラム酒をより深く楽しめるオリジナルレシピも掲載しています。母島の美しい海が作り出したお酒を、その魅力と一緒に味わってみませんか?
目次
母島ってどんな島?
母島は小笠原諸島の有人島。都内から大型客船「おがさわら丸」で24時間かけて父島まで行き、そこからさらに2時間の船旅を経てようやくたどり着ける島です。
亜熱帯に属するため気候は南国のように温暖!年中通して平均気温が25度前後もあるんです。
また、どの大陸とも繋がったことのない海洋島で、独特の生態系が確立しているのも大きな特徴。ここにしかいないとても貴重な動植物が生息しており、2011年6月には世界自然遺産にも登録されました。
まさに自然の楽園である母島。東京都では、母島を含む島しょ地域11島のブランド化を目指す「東京宝島事業」に取り組んでいます。
自然景観や海洋資源、特産品、歴史・文化などのさまざまな“宝物”がまだまだ隠れている母島。「海底熟成ラム Mother」もそんな“宝物”から誕生したものなんです。
知る人ぞ知る母島の銘酒!「海底熟成ラム Mother」誕生秘話
「海底熟成ラム Mother」はまだまだ歴史の浅いお酒です。もともと小笠原では「小笠原ラム」というお酒が製造されていました。
その始まりは昔、小笠原では暖かい気候を生かしサトウキビの栽培が盛んに行われていました。サトウキビを加工する過程でできる糖蜜という副産物を蒸留し、第二次世界大戦前までは島民に愛飲されていたそうです。
しかし、戦争の影響による1944年の強制疎開で無人島と化し、この糖酎文化は一度衰退。小笠原諸島が1968年にアメリカから日本の領土として返還された後、島民たちの間で「また糖酎を飲みたい」という声が上がります。
1989年に、製造元として「小笠原ラムリキュール株式会社」が設立。そうして誕生したのが、「海底熟成ラム Mother」の前身となる「小笠原ラム」です。
外国では海底に沈んでいた難破船から見つかったワインが偶然熟成されて美味しくなっていた、という事例が多発。日本でもこれを受けて、お酒を海底で熟成させるプロジェクトが各地で動き出し、観光協会の発案で母島でも行われることになりました。
「海底で熟成させたらどうなるのかな?」という素朴な疑問と、「『小笠原ラム』をもっと多くの人に知っていただきたい!」という想いが重なり、海底熟成実験が行われます。
難破船でおいしくなったお酒に共通していたのが、①熟成に適した水温、②波の揺らぎ、③瓶内の気圧と水圧のバランスの良さ、という3つのポイント。母島の海でもそれらの点を満たせるのか検証すべく、ラム酒は1年間海底に沈められました。
試作品は無事成功し、2017年に本格的に「海底熟成ラム Mother」として商品化され販売されるようになりました。
味としては通常のラムよりもまろやかですか、ちょっぴりドライな風味が後を追ってきます。他にはない高級感のある味で、普通のカクテルなどもこれで作ったらよりおいしいはずです!
母島観光協会・木藤さんが「海底熟成ラム Mother」にかける想いとは?
観光協会の方の想いがきっかけとなった「海底熟成ラム Mother」。母島の海がお酒にどんな影響を及ぼしているのかや、現在の活動について、「Mother」を愛する母島観光協会の木藤さんにお話を伺いました!
ちょっぴり恥ずかしがり屋さんとのことなので、インタビュー風景は後ろ姿で失礼します…(笑)!
母島の海だからできる「Mother」の魅力
ゆかりごはん:木藤さんが観光協会に入られたのはいつ頃なんですか?
木藤さん:2020年の4月で、今3年目になります。もともとの出身は長野で、東京で暮らした後、母島に移住してきました。「Mother」には入った当時から関わっています。
ゆかりごはん:木藤さん的には「Mother」のどういうところがお好きですか?
木藤さん:お酒が好きなので、ラムって言われると「モヒートに入っている」という感じでしか関わったことのないお酒でした。今は小笠原とラム酒自身の歴史的なつながりがあったり、海底に沈めて美味しくなるのもおもしろいなって思いながら、みなさんにお伝えしてますね。
ゆかりごはん:ストーリー性に惹かれているんですね。
木藤さん:あと、「Mother」でラムレーズンが簡単に作れるんです。レーズンにちょっと「Mother」をかけるだけで、すごく香りのいいラムレーズンが一晩でできるので。クリームチーズとあえれば簡単なディップソースができるし、無塩バターと混ぜればレーズンバターがすぐできるから、ホームパーティーとかに持っていった時は大人気でした(笑)。
ゆかりごはん:アレンジレシピをお願いしたシェフの方も「ドライな味だから料理にもめちゃめちゃ合います」っておっしゃってました。甘いものとも合うし、生ハムみたいな塩気のあるものと組み合わせてもおいしいって言ってて、カクテルだけじゃなくとにかく使いやすいお酒なんだなって思いました。
木藤さん:定番のレシピに使うお酒を「Mother」にするだけで、すごく香りが良くなっておいしくなりますしね。
ゆかりごはん:海底熟成酒は、水温や波の揺らぎが味に影響するとお聞きしました。
木藤さん:はい、海底熟成酒って色々な場所で作られているんですが、どこも水温とかが全然違うので、味も変わってきますね。
ゆかりごはん:ということは「Mother」のあの味も、母島の綺麗な海でしか生み出せないものなんですね…!
木藤さん:そうなんです!住んでいると、この海の存在が当たり前になっていくんですけど、東京から戻る時「おがさわら丸」で朝を迎えると、真っ青な海が一面に広がっている瞬間が何度見ても綺麗です。母島の美しい海があってこその「Mother」なんですよね。
ラムオーナー制度で広がる家族の輪
木藤さん:ラムオーナー制度という、お申し込みがあってからお客様のために海底に沈めて、おおよそ1年後にお手元に届けるっていう販売方法もあります。お孫さんの誕生や、結婚記念日とか、コロナ禍になってから新婚旅行で来てお申込みいただく方も増えました。
木藤さん:赤ちゃんが生まれたタイミングで熟成を開始して、成人式の時にお届けするとか、今後そういうことができたらおもしろいと思っていますが、ビンが海底で水の圧力にどれぐらい耐えられるか分からないという課題もあります。
ゆかりごはん:「Mother」自体の歴史がまだ浅いから、一度試作してみないと分からない部分もありますよね。
木藤さん:そうですね。そういう販売方法とか、これから色々できたら良いなと思っています。今はまだ知名度がそんなにないんですが(笑)。
ゆかりごはん:知名度がないってことは、今ラムオーナー制度のご購入をされてる方って、1回小笠原に来たことがある方がメインでしょうか?
木藤さん:はい、観光協会の窓口でのお申し込みが95%以上ですね。残りの5%は1回来て内地に帰ってから申し込んでみようって人や、都内でイベントがあった時にご購入いただくパターンもあります。
木藤さん:あと、ラムオーナー制度をずっと定期的に申し込んでくださってる方もいます。例えば最初は娘さんの結婚式に「プレゼントで持っていきたいから」っていうので2本、2回目はお子さんの妊娠が分かった時、この前はお孫さんが1歳になったからっていうファミリーエピソードと結びついていて、20年後一緒に飲むんだって窓口で嬉しそうに話してくれましたね。
ゆかりごはん:すごく素敵ですね~!
木藤さん:毎回15本買ってくださる方とかもいますね。「息子たちが毎回遊びに来ると1本空けるくらい好きなのよ」って言っていただいてて、とても嬉しいですね。
課題もあるけど…もっと広げたい「海底熟成ラム Mother」
ゆかりごはん:1番最近だとどういったPR活動をされていたんですか?
木藤さん:白金台にある「八芳園」が運営する「MuSuBu」っていうポップアップショップがあって、そこの島特集で「Mother」を使ったラムレーズンパンを作ってもらいました。あとは、これからラジオ番組のプレゼント企画があったりしますね。
ゆかりごはん:都内でも色々なところで「Mother」が登場しているんですね…!これから「Mother」をどういった形で広めていきたいですか?
木藤さん:お菓子屋さんに依頼をして「Mother」のお菓子を作ってもらうっていうのはやってみたいと思いますね。あとは小笠原のお土産自体、数がそんなに豊富じゃないので、「Mother」を使ったお土産を作るとか。ただ食べ物となると、母島は暑いので溶けちゃったら大変とか、数がどれくらい裁けるのかとか、そういうことを考えると課題が山盛りです。
ゆかりごはん:課題がたくさんある中での工夫が必要だと思いますが、母島の海でしか生み出せない「Mother」のこれからが楽しみです!
▼ライター後記
いかがでしたか? たとえ同じように温暖な海にお酒を沈めても、微々たる条件の違いで味も変わってくるのが海底熟成酒の奥深さ。母島の海でないとこの味が出せない…そう思うと、自然の神秘を感じます。
インタビューの中で知名度についてのお話が出てきましたが、今後、木藤さんたちの活動や購入者の口コミなどで、母島の“ボニンブルー”とともに、この特別なラム酒が広まっていけばいいなと思いました。
シェフ考案!「海底熟成ラム Mother」のおいしいアレンジレシピ
ここからは、「海底熟成ラム Mother」の魅力を舌で感じられるアレンジレシピをご紹介します。
観光協会の方から「ラム酒のアレンジってカクテルとか以外に思いつかなくて…」という声があったので、東京ルッチ編集部が独自に料理人の方に依頼して作っていただいたんです…!
おうちで簡単にマネできる!という点を重視して開発していただきました。ご協力いただいたのは、渋谷スクランブルスクエアの4階でフランス料理店「Le Défi Osanai」を営む長内シェフです。
長内 彰吾(おさない しょうご)
1993年広島生まれ。実家の飲食をきっかけに料理人に。
広島酔心調理製菓専門学校を卒業し覚悟を決め上京。
2014年、レストラン「ひらまつ広尾」へ入社。
2019年、副料理長に就任。
2021年に渡仏を目指したが流行病により断念し退社。
その後、出張料理人をやりながら独立の準備をし、2022年2月〜渋谷スクランブルスクエアで「Le Défi Osanai」を出店。(引用元:Le Défi Osanai公式サイト)
①フォンダンショコラ
バレンタインなどにもピッタリなフォンダンショコラ。「Mother」を使えば、簡単にお店の味に仕上がりますよ。工程は多いですが、ポイントをしっかり押さえれば失敗なく仕上がります。
ブラックチョコレート(55~65%) 60g
バター 40g
卵 1個
薄力粉 13g
粉糖 37g
海底熟成ラム Mother 7g
▼作り方
① ボウルにチョコレート、バターを入れ湯煎にかける
② 溶かしたチョコレート、バターをしっかり混ぜておく
③ 別のボウルに卵をしっかりときほぐす
④ 薄力粉、粉糖を計りふるっておく
⑤ ③に④を2~3回に分けて入れ、その都度よく混ぜる。ダマがなくなればOK
⑥ ⑤に②とラム酒を入れ、しっかりと混ぜ合わせる
★この時、ツヤが出るまで混ぜて卵をしっかり乳化させること
★ゴムベラですくった時、落ちた生地の跡が残るくらいの固さがベスト
⑦ セルクル型にクッキングシートを貼り付けておく
★ココットの場合、クッキングシートはなしでOK
⑧ 型に50gずつ生地を入れて180℃で8分
⑨ 焼き上がったら型からすぐに外し、粉糖などで飾りづけをして完成
②フレンチトースト
フレンチトーストは1番簡単。トッピングはなんでも合いますが、おすすめは生ハムやベーコン、ハムなどの塩気の効いたもの!しょっぱさと「Mother」の香りが本当に相性抜群なんです!
牛乳 150ml
卵 1個
砂糖 4g
はちみつ 20g
海底熟成ラムMother 4g
▼作り方
① 全ての材料をボウルに入れて混ぜ合わせ、濾(こ)す
② パンを一度レンジで温め、①に浸す
★パンを温めると、吸水力があがり時短に!
③ 5分後にひっくり返し、さらに5分浸けておく
④ フライパンにバターを熱し、両面をこんがりと焼いてから200℃のオーブンで3分焼く
⑤ 仕上げにバター、黒胡椒を振って完成
★卵や生ハムなど塩気のあるトッピングがあると◎
③さつま芋のブリュレ
さつま芋のブリュレも、「Mother」の香りがお芋の甘さを引き立てる上品な逸品。キャラメリゼもかけるなら、ラム酒をちょっと垂らすとこれまた一味違った味になります。
パリパリ食感が好きな方はガスバーナーを用意しましょう。
さつまいもピューレ 120g
卵黄 20g
砂糖 20g
生クリーム 100ml
牛乳 50ml
海底熟成ラムMother 7g
▼作り方
① さつまいもを洗って針やフォークでたくさん穴をあけ、予熱なしの180℃で90分間オーブンに入れる。その後取り出して30分間余熱で火を入れる
② 芋を半分に切り、中身をくり抜いて滑らかにし、ピューレ状にする
★裏ごしするとより舌触りが良くなる
③ 別のボウルに卵黄に砂糖を入れしっかり混ぜる
④ 鍋に生クリームと牛乳を入れて沸かす
⑤ ④を③に入れラム酒も加えて混ぜ合わせる
⑥ ⑤をボウルに入れたピューレ状にした芋としっかりと混ぜ合わせる
⑦ クッキングシートで器を作り、くり抜いたさつまいもの皮をはめこんで⑤を流し込む
⑧ 150℃に熱したオーブンにお湯を入れたココットと一緒に⑦を入れ20分
★キャラメリゼにもラム酒を加えるとより大人の味に仕上がる!
「海底熟成ラム Mother」で海の恵みを感じよう
ここまで「海底熟成ラム Mother」の魅力と誕生秘話、そして木藤さんインタビューなどをお届けしてきました!
「海底熟成」という点だけでも十分驚きでしたが、このまろやかさと辛さが共存する新感覚の味は、母島の海だからこそ生み出されたもの。
海の魅力といえばダイビングやシュノーケリングが常ですが、今回の取材を通して、クジラやイルカも訪れる豊かな“ボニンブルー”に無限の可能性を感じました。眺めるも良し、遊ぶも良し、そして舌で感じるも良しな母島の海。あなたもぜひ母島を訪れて、海の魅力を満喫してみてください!
母島には海だけでなく山の魅力もいっぱい!こちらの記事では、母島でのトレッキングの様子や、自然ガイドの方のインタビューも掲載しています!
お隣にある父島の「訪日外国人向けロングステイ推進プロジェクト」についても取材しました!戦跡巡りの様子とともにぜひご覧ください!
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〈執筆・編集:ゆかりごはん/撮影:ゆうこば〉