ひょうたん山から見た三宅島の雄山

みなさんこんにちは、ライターのまおみです。

東京宝島」の一つである三宅島をご存知でしょうか? 東京から約180km南の海上に位置し、今も火山活動をしています。

東京宝島」とは?

東京都の南に位置する11の有人離島(大島、利島、新島、式根島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島、青ヶ島、父島、母島)の総称。これらの島々には、豊かな自然景観や海洋資源、特産品、歴史・文化などの“宝物”が数多く存在しています。東京都ではこうした“宝物”や隠れた魅力を掘り起こし、一層磨きをかけ、広く発信していくことで、島のブランド化に向けて取り組んでいます。 

地球の息吹を全身で感じることのできる三宅島では、「火山と共に生きる」人々と、形を変えながらも再生してきた自然の姿をみることができます。

ここは、人と自然の「底知れぬパワー」によってリセット(再生)とリブート(再起動)が起きている場所なのです。

今回はそんな三宅島を、“リセット&リブート”をキーワードに取材。スポット巡りやインタビューを行い、その模様を前編・後編にわたってご紹介していきます。

前編では雄大な自然スポットと、それを守る自然保護施設の方の活動について伺い、三宅島に満ちている生命力の源に迫ります。

地球の鼓動を感じられる三宅島とは

三宅島は都内にある調布飛行場からプロペラ機で45分、竹芝客船ターミナルから大型船で6時間半で着くアクセスのよい島です。

車で1時間もあれば一周できる島内には、至るところにダイナミックな火山景観や自然の姿があります。

三宅島の海岸

磯でぐるりと囲まれた三宅島は釣り場も豊富。黒潮が直接当たる海域なので、島には100種類以上の魚が生息しており、釣り人の間では「知る人ぞ知る釣り人の聖地」ともいわれています。

三宅島の天然記念物「アカコッコ」
▲天然記念物の「アカコッコ」(出典:アカコッコ館 アカコッコからの手紙)

また、別名「バードアイランド」と呼ばれるほど、島には多くの野鳥が暮らしています。天然記念物や絶滅危惧種に指定されているアカコッコを見かけることもめずらしくないんだそう。

そんな普段の私たちの「日常」では考えられない「非日常」を近くで感じることができる、それが三宅島です。

美しくもダイナミック!三宅島の自然スポット巡り

自然ガイドの菊地ひとみさん

三宅島についてザックリ分かったところで、ここからは“リセット&リブート”の片鱗を感じることができる三宅島のスポットをご紹介していきます。火山が生み出した圧倒的スケールの自然スポットばかりですよ。

今回は、山と海の自然ガイドをしている菊地ひとみさんにご案内いただきました。

2007年に三宅島に移住した菊地さん。現在は自然と人を繋ぐ“橋渡し”として、島の魅力を多くの観光客に伝えています。

新鼻新山(にっぱなしんざん)

三宅島「新鼻新山」

1983年の噴火によって黒いスコリア(火山噴出物)が降り積り、一夜にしてできたのが「新鼻新山(にっぱなしんざん)」です。

たった一晩でこれが作り出されたと聞き、火山エネルギーのパワーを思い知らされます。

断面の地層が赤いのは、高温で焼かれたマグマが空気に触れ酸化してしまったから。コバルトブルーの海に映える赤と黒のコントラストは、自然界が作り出した天然のアートです。

三宅島「新鼻新山」のスコリア

この黒い石が、火山噴出物のスコリア。持ってみると羽のように軽いんです。

三宅島のようにスコリア大地がたくさんある島は水に恵まれないといわれており、事実、島には川がありません

その原因はスコリア表面に空いている無数の穴。この穴を抜けて一瞬で水分が浸透し乾いてしまうので、なかなか水が溜まらないそう。三宅島にとって水は、とても貴重な資源なんです

三宅島「新鼻新山」周辺の様子

砂漠のように広がる黒いスコリアを前に、「百聞は一見にしかず」という言葉が頭をよぎります。

歩くとザクザクと音が響くスコリア。足を踏み入れた瞬間、鳥肌が立つほどの漆黒の大地。写真で見るだけでは感じられない、ダイナミックな自然に心が奮い立たされます。

ひょうたん山

1940年の海底噴火で誕生した「ひょうたん山」。元々この場所には海がありました。

先述した「新鼻新山」と同じようにスコリアが敷き詰められ、一面真っ黒です。

三宅島「ひょうたん山」の植物

スコリア大地は土がなく、水はけがよく水分が留まらない性質上植物が育ちにくい環境下といわれているのですが、辺りを見渡すと植物がしっかりと根付き、生きようとしている姿が見られます。

三宅島「ひょうたん山」頂上からの眺め

頂上の噴火口は直径100m、深さは30m。元々この山には海側にもう一つ噴火口があったのですが、波と激しい風による浸食や崩落で、徐々に消失してしまったそうです

三宅島「ひょうたん山」から見える雄山

頂上からは島の中心にそびえる「雄山(おやま)」がキレイに見えます。雄山の標高200m付近の場所から噴火がおこり、大量のスコリアや火山弾、溶岩などが噴出。

結果、たった22時間という短い時間で、ひょうたん山は形成されたのです

三宅島「ひょうたん山」から見える「赤場暁」

ひょうたん山から望む海岸線には、「赤場暁(あかばきょう)」が。レンガのような赤い地層は、1940年噴火で流れた溶岩やスコリアが積もり、荒波で削り取られたことで現れました。

新鼻新山のような自然が生み出した赤と青のコントラストを、ここでも体感することができます。

火山体験遊歩道

三宅島「火山体験遊歩道」①

溶岩流のすさまじさを体験できるのが「火山体験遊歩道」です。もともとは温泉郷として賑わっていたのですが、1983年の噴火で現在のような姿になりました。

この溶岩流の上に造られた遊歩道を歩くと、噴火の形跡と共に、植物の強い生命力を感じることができます。

玄武岩

玄武岩は表面がゴツゴツしているのが特徴です。大部分が玄武岩で形成されている三宅島は、水はけが良すぎる土壌なので水分が抜け出てしまい、植物が育ちにくい環境にあります

三宅島「火山体験遊歩道」のハチジョウイタドリとススキ

しかし火山遊歩道を歩くと、多くのハチジョウイタドリススキの姿が。

根っこを何mも掘り下げて水分を取り込むこの2つの植物は、厳しい環境である溶岩地帯であっても真っ先に参入してくるため「パイオニア植物」と呼ばれています。

火山ガスの中でも強く根っこを生やし、山崩れを止めてくれる役割も果たしてくれるのです。このような溶岩地帯でも再生しようと、植物はたくましく根を伸ばし続けています。

三宅島「火山体験遊歩道」③

遊歩道沿いに多くの植物が生えているのは、人々が歩くことで足裏の土を落としたり、遊歩道で種子や土がここで止まるため、植物化が一気に進んだからだそうです

それがなければ恐らく、ここは真っ黒な大地のままだったはず。そう聞いて、ここに来るだけで植物の再生に貢献できることを知ります。

「火山と共に生きる」ことや「圧倒的な自然」のありのままの姿から、リブートを感じることができるスポットです。

メガネ岩

三宅島「メガネ岩」

1643年の噴火による溶岩流によって形成されたのが「メガネ岩」です。穴が空いているのは、長年に渡り荒波に侵食され、削り取られたからだそう。

現在の形状を見て「なぜメガネ?」と思った方もいるかも知れません。実はもうひとつアーチがあったのですが、1959年の伊勢湾台風の時に崩れ落ちてしまったんだとか

伊豆諸島の中でも新島・式根島・神津島以外は、玄武岩由来の黒い溶岩を流す火山島なので、海岸線沿いは真っ黒な岩だらけ。力強い火山エネルギーによって作り出された暗黒の世界に、圧倒されます。

メガネ岩の柱上節理

断面をよーく見ると、縦方向に筋が入っていることが分かります。

これは「柱状節理(ちゅうじょうせつり)」と呼ばれ、流れ出た溶岩が時間をかけて冷え固まる時の収縮によって起こる割れ目のこと。福井県の東尋坊や伊豆半島の地形も同じ形なんだそうです。

三宅島「メガネ岩」から見える大野原島

岩の奥にうっすらと見えるのは「大野原島(おおのはらじま)」という無人島。三宅島から見ると3本の岩礁(がんしょう)に見えることから、通称「三本岳(さんぼんだけ)」と呼ばれており、磯釣りの聖地として知られています。

3本の中で一番大きく見える「子安根(こやすね)」には、世界に5,000〜10,000羽しかいない国の天然記念物「カンムリウミスズメ」が生息。火山由来の島の形が天敵から身を隠すのに最適なため、繁殖地となっていると考えられています。

椎取(しいとり)神社

三宅島「椎取神社」の旧鳥居

世界でも有数のジオスポットとなっている「椎取神社」2000年の噴火による火山灰が大雨で泥流となり、社と旧鳥居が埋もれていきました

根からの呼吸が困難になり、森も一度全滅したそうですが、今では再び緑が姿を見せています。20年もの時を超え眠り続ける旧鳥居。その間にも自然は着実に蘇り続けているのです。

三宅島「椎取神社」本殿

新拝殿の奥には、巨大な岩に守られている御本殿が。ここだけ空気が変わったような感覚に、パワースポットと呼ばれる所以を身をもって感じました。

サタドー岬

三宅島「サタドー岬」

海面から高さ20mにもおよぶ断崖絶壁「サタドー岬」“某サスペンス劇場”を彷彿とさせる岸壁は圧巻!ザッバーンと大きな音を立て荒波が砕け散る姿は、迫力満点です。

荒波の音を聞いていると無心になれ、心の中に抱えていた余計なものが洗い出される感覚を覚えます

一昨年にはこの場所で、大きなブロー(潮吹き)音を上げるクジラの親子が泳いでいる姿が目撃されたそうです。

三宅島「サタドー岬」で見かけたウミガメ

岸壁の下には、押し寄せる波の中を懸命に泳ぐ「アオウミガメ」を高確率で見ることができます。

2000年の噴火前にはあまり姿を見ることがなかったですが、噴火後に数が増え現在は産卵や孵化も確認されています

噴火により失われたものもありますが、新しく生まれたものも確かに存在するという事実に、自然の奥深さを感じます。

長太郎池

三宅島「長太郎池」

溶岩に囲まれた自然のタイドプール(潮だまり)を楽しめるのが、「長太郎池」

夏はシュノーケリングや海水浴のスポットとして人気です。

三宅島「長太郎池」の水は透明度抜群

以前は三宅島の代表的なフィッシュウォッチングポイントでしたが、2000年の噴火により1mほどの地盤沈下が発生したため、現在は干潮時間のみ入ることができます。

透明度がとても高いので、干潮時には様々な海の生き物を間近で観察することができます。濁りのない美しい水面に心が洗われていくようです。

伊豆岬

三宅島「伊豆岬」

1909年築伊豆諸島最古の灯台が建っているのが「伊豆岬」です。

ここからは新島や神津島、天気がいい日には富士山まで眺めることができます。

三宅島「伊豆岬」付近の地層

周辺は地層観察に最適なスポットでもあり、過去1万年の伊豆諸島の噴火の歴史を辿れます。

“三宅島の中でも最も美しい地層”と言われていて、2500年前の地層が見られるとても貴重なものだそう。囲いなどはないため、実際に手で触れることもできます。

三宅島「伊豆岬」で見られる火山豆石

火山灰はパウダー状ですが、地層の中には所々、丸い石のような小さな固まりが埋め込まれています。

これは火山用語で「火山豆石(かざんまめいし)」と言い、火山が噴火した時に火山灰が雲の層にまで達し、水蒸気と火山灰が付着してできたものです。丸くなって固まり、空から降ってきたんだそう。

つまり、雲の層に達するくらいの噴煙が上がった、とても大規模な噴火だったことが分かります。

三宅島「伊豆岬」からの夕日

ガイドの菊地さんが三宅島で一番好きな場所だという伊豆岬。日没近くになると美しい夕日を見るために、島民の方が次々とこの場所を訪れていました。

沈む夕日の位置が少しずつ変化するたびに感じる、季節の移ろい。自然界の小さな変化に気付き、巡る季節を楽しむことが、三宅島ではできるのです。

三宅島「伊豆岬」のフォトスポット

周囲には灯りがないので、夜になるとプラネタリウムのような星空が一面に広がります。三宅島では一年中、肉眼で天の川を観測できるそうです。

訪れる時間帯によって様々な表情を見せてくれる伊豆岬は、島民の方々の憩いの場所。一日の終わりに、自然が作り出す美しい景色を全身で感じることで、頭の中をリセットできます。

巨樹(迷子椎・補陀落の椎)

三宅島の巨樹「迷子椎」

三宅島には「巨樹(きょじゅ)」と呼ばれる、長い時間をかけて育ってきた大木が多く残っています。度重なる噴火の中でも三宅島の巨樹は耐え、生き抜いてきました。

「森で迷子になった時はこの大樹を目指せばいい」といわれ、島民の道標となっている「迷子椎(まいごじい)」

樹齢は約500〜600年で噴火を司る神が宿る木”として崇められており、「やどり木」とも呼ばれていました。“御神木”としてずっと三宅島の歴史を見てきた、生き証人のような存在です。

三宅島の山中

巨樹へと続く道は、まるで異世界”への入り口のようです。

時々マスクを外して思いっきり深呼吸。ツンとした冷たい空気と少し湿っぽい木の香りを感じ、おいしい空気で心がリセットされるようです。

この辺りでは、他にもたくさんの巨樹を見ることができます。森林浴をしながら、島と共に生きてきた巨樹たちの軌跡を辿ってみてください。

大路池(たいろいけ)

三宅島「大路池」の自然

巨樹が立ち並ぶ森を抜けると、「大路池(たいろいけ)」があります。2500年前の水蒸気爆発によって誕生した火山湖で、伊豆諸島最大の湖です

文豪・太宰治もかつて三宅島に来た際に大路池を訪れ、癒しの時間を過ごしたという記録が残されています。

確かに、聞こえてくるのは鳥のさえずりだけ。目を瞑ってその声を聞くと、360度ぐるりと鳥たちに囲まれているような気分になります

電車やテレビの音、人の話し声や流行りの音楽など、あらゆる人工的な音”と共に暮らしている私たち。ここにはそんなものは一切なく、ひたすら自分の心”に向き合うことができます

三宅島「大路池」で泳ぐ野鳥たち

多くの野鳥好きに愛されている三宅島。中でも大路池は日本一のさえずりの小径」と称され、バードウォッチャーにとって聖地のような場所です。

国の天然記念物のアカコッコイイジマムシクイカラスバトなど、稀少な野鳥もここで暮らしています。

アカコッコ館

三宅島「アカコッコ館」外観

大路池からほど近い場所にあるのが、1993年に設立された「三宅島自然ふれあいセンター アカコッコ館」です。

「日本野鳥の会」のスタッフが常駐しているので、野鳥のことだけでなく三宅島の自然についてのお話を聞くこともできます。

めずらしい野鳥の観察ができ、時期によっては天然記念物の「アカコッコ」を見られる可能性もありますよ。

三宅島「アカコッコ館」内観

館内には野鳥観察ルームや野鳥に関する展示のほか、三宅島の海の生き物についても展示されています。

「アカコッコ館」という名前なのになぜ海の生き物の展示まで?と思う方もいるかもしれませんが、この施設は元々三宅島全体の自然を調査・研究し、広めるために建てられたもの。レンジャーの方の「すべての自然を愛する気持ち」が詰まっているんです。

アカコッコ館
営業時間 9:00~16:30
定休日 月曜日
電話番号 04994-6-0410
住所 東京都三宅島三宅村坪田4188
地図 Googleマップ
公式サイト アカコッコからの手紙

三宅島の自然を守り広める!「アカコッコ館」内藤さんにインタビュー

そこで今回は、アカコッコ館レンジャーの内藤さんに三宅島の自然に対する想いをインタビューさせていただきました。

自然環境とどう向き合っているのか、移住者でもある内藤さんならではのエピソードとともにご覧ください。

▼これまでの経歴
内藤 明紀さんプロフィール写真

内藤 明紀(ないとう あきのり)さん

元々はWEBの制作会社でサイト作成の仕事を行う。
転職に悩んでいた時に日本野鳥の会でWEB担当の職員を募集していることを知り転職を決意。
日本野鳥の会「会員室」に所属となる。
三宅島には2009年5月に初来島。2010年4月から転勤に伴い三宅島の島民に。
移住後はアカコッコ館でレンジャーとして常駐。
自然情報の提供、自然観察会の開催、調査・研究などの活動を行う。

偶然の出会いから野鳥の会へ転職

内藤 明紀 インタビュー風景②

まおみ:内藤さんが日本野鳥の会に入られたきっかけを教えてください。

内藤さん:野鳥の会に入る前はWEBの制作会社でサイトを作る仕事をしていました。ですが、会社の方針が変わってあまり関心のない分野の仕事が増えてしまい、今後この仕事を続けていくべきなのかをずっと悩んでいたんです。

内藤さん:そんな時、本当に偶然、野鳥の会でWEB担当を募集しているのを見つけ転職することにしました。

まおみ:もともと野鳥が好きでこのお仕事をされているのだと思っていました!ちなみに、野鳥や自然保護に関する活動の経験はあったのでしょうか?

内藤さん:野鳥の会の職員として私はかなりイレギュラーな人物で…。ほとんどの職員は学生時代に生き物や自然環境について学んだりボランティアの経験があるのですが、私はそういう経験が一切ありませんでした

内藤さん:ただ、自然が割と多い地域に住んでいたので、小さい頃は虫やザリガニ取りをして遊んでいて、それがすごく楽しかったんです。だからといって別に生き物とかに詳しいわけでもなく、本当に普通の少年でしたね。ですが、大人になってふと気がついたら子供の頃に楽しんだ自然がなくなっていて。「そういった自然がどんどん減っていくのをなんとかしたい」という思いは心の中にずっとありました。

内藤 明紀 インタビュー風景③

内藤さん:「星の王子さま」で有名なサン=テグジュペリの言葉で我々は、地球を先祖から受け継いでいるのではない、子どもたちから借りているのだ」という言葉があるのですが、本当にその通りだと思っていて。私たち大人が自然を壊してしまうことで将来の子どもたちの楽しみを奪ってしまうのは非常に良くないと漠然と感じていました

まおみ:そのお話を聞くと偶然見つけたと思っていた野鳥の会のお仕事は、じつは偶然の出会いなんかじゃなかったように感じます。

知識がなく“偽レンジャー”と呼ばれていた過去

まおみ:三宅島にはどのようなきっかけで来ることになったのですか?

内藤さん:島に来たのは20095で、保護活動を重点的に行うと決まった絶滅危惧種「カンムリウミスズメ」の調査をしに来ました。といっても私自身は調査経験もなく、先輩のお手伝いという感じでしたが。

絶滅危惧種「カンムリウミスズメ」
▲絶滅危惧種のカンムリウミスズメ(出典:アカコッコ館 アカコッコからの手紙)

まおみ:最終的に移住が決まったのはいつ頃だったのですか? 都内勤務から三宅島に転勤になると決まった時に戸惑いなどは…。

内藤さん:移住したのは2010年の4月で、今年でもう12年目になります。一度調査に行っただけだったので、三宅島がどんなところかはよく知らなくて。2000年の噴火でさえ、大人だったのにも関わらずほとんど記憶にありませんでした。

まおみ:しかもWEB担当からアカコッコ館のレンジャーとして働くことになって…余計に戸惑いますよね。

内藤 明紀 インタビュー風景⑤

内藤さん:アカコッコ館の勤務が決まった時の私は、野鳥や自然に関する知識がまったくなかったので「偽レンジャー」なんて呼ばれたりもしていたんです(笑)

内藤さん:当時は、「あの人なにも知らないんだ」って言われるのが嫌ですごく苦しかったですね。お客さんにも迷惑をかけてしまうし、何より知識のないレンジャーが来たことで守られなくなってしまう三宅島の自然に対して申し訳なさを感じていました。毎日、野鳥が活発な早朝に起きて必死に勉強しましたよ(笑)。

その場所を好きになる人を増やすためのきっかけ作りを

内藤 明紀 インタビュー風景⑥

内藤さん:の考えに“野鳥も人の地球の仲間”というのがあるんですが、これは私のすごく好きな言葉でもあります。“野鳥”を時々、魚とか虫とか違う言葉に置き換えて話すこともありますが。地球を三宅島に言い換える時もありますね。自然を守るためには様々な方法がありますが、私が一番大切にしているのは“その場所を利用する人にそこを好きになってもらうこと”なんです。仲間のいる場所のことをもっと好きになってもらいたいなと。

まおみ:好きになってもらうこと、ですか…。それはなぜですか?

内藤さん:正直、昔は考えたことすらなかったのですが、三宅島在住だった海洋生物学者の故ジャックモイヤーさんが「海は楽しい」「海は素晴らしい」「海は大切だ」という言葉を常に発信していて、とにかく好きになってもらうことが一番なんだって気が付いたんです

内藤さん:どんな人でものをうなんてだろうにもそれをと思いますよね。自然を好きな人が増えれば増えるほど、この環境は守られていくと思うんです。それは三宅島に限らずですけどね。

富賀浜のテーブル珊瑚の群生
▲富賀浜のテーブル状サンゴの群集(出典:アカコッコ館 アカコッコからの手紙)

内藤さん:三宅島には伊豆諸島でも最大級のテーブル状サンゴの群集が見られるスポットなので、島外からはその美しさを見るためにわざわざ三宅島に訪れる人もいるほどです。このテーブル状サンゴを一度も見ないまま、高校を卒業して島を離れていく子どもたちが大勢いるんです。

まおみ:近くに当たり前のように存在していると、その素晴らしさに気付けないのかもしれませんね…。

内藤さん:島のにもとのひとつに 未就学児向けの観察会があります小さな子どもだと大きな声を出してしまうこともあるので、バードウォッチングをしたくても他のお客さんのことを考えて遠慮してしまうお母さんが多いことを知ったんです。

まおみ:確かに、参加したくても他の方の目が気になって参加しづらいですよね…。

内藤さん:「それなら小さい子供だけ集めればいいのか!」と思いつき、まずは私の休みの日に実験的に観察会を開催しました。何度か開催するうちに20名ほどの子供たちが参加してくれるようになり、お陰様で会は大成功だったんです。

アカコッコ館のイベントチラシ
▲以前開催したアカコッコの編みぐるみ講座(出典:アカコッコ館 アカコッコからの手紙)

内藤さん:てお年寄りに三宅島の自然の素晴らしさについておをしたり、編み物講座を開催したこともあるんですよ(笑)。

まおみ:え?編み物講座ですか??

内藤さん:なにがきっかけで自然や生き物に興味を持ってくれるのかは分からないので、色々なアプローチ方法を使いながら関心を持ってくれる人を増やせたらいいなと思っているんです

内藤さん:この編み物講座に関しては、まずは私の講義からスタートするので「騙された!」と思った人がいるかもしれないですけどね。私は話が長いので(笑)。でも普段の生き物観察会では参加しなかった方が来てくれて、講義もちゃんと聞いてくれます。

“足元を見る”と出会える生き物がいる

内藤 明紀 インタビュー風景⑨

内藤さん:私は蜘蛛が好きなんですけど、今年は三宅島初記録となる蜘蛛を3種類も見つけました。そのうちの1種類は伊豆諸島でも初だと思います。私たちが知らないだけで身近なところにはたくさんの生き物がいるんですすぐ近くにめちゃくちゃかっこいい生き物がいるんですよ!

まおみ:生き物について語る内藤さんは目がとってもキラキラしていますよね。本当に生き物が好きなんだなと感じました!

内藤さん:でも元々のナチュラリストじゃないんですよね。僕の先輩もですが、本当に目をキラキラしながら生き物のこと語っているのを見て「この人たちには勝てないな」と思っていました。

内藤さん:昔は生き物と接することは仕事のうちだと思っていたので、自分のことを、“リーマンレンジャー”なんて言ったりもしました(笑)。でもいつの間にか仕事関係なく、私も生き物のことを調べるようになっていましたね。

まおみ:内藤さんも完全に、自然オタクの仲間入りですね(笑)。

意識をするだけで、そこは“素敵な空間”に変わる

内藤 明紀 インタビュー風景⑪

内藤さん:三宅島よりも都内の方が野鳥の種類は多いんですよ

まおみ:え!絶対に島の方が数が多いと思っていました。鳥の鳴き声もそんなに聞こえないですし…。

内藤さん:日本で一番小さいキツツキのコゲラを初めて見たのも都内だったんです。会に入った時の事務所が初台にあったのですが、事務所の裏で。

内藤 明紀 インタビュー風景⑬

内藤さん:その地域ごとに自然を守っている人がいるのに自分たちが何も知らないだけで、「自分の住む地域には何もない」って決めつけるのはちょっと寂しいかなぁと。

内藤さん:何もないと思って見ているから気が付かないだけであって、意識すると色んなことが見えてきます。そうすると色々なものに対してな」思えるようになるんです。そんな風に思えると、きっとその場所は素敵な空間”に変わっていきますよ。

まおみ:決めつけていることによって自分の視野が狭まっていたんですね。

内藤さん:なので、「本土に戻ってからも色んな鳥がいるので意識して見てみてくださいね」と伝えるようにしているんです。三宅島に来た時だけ自然を楽しむのではなく、本土に帰ってからも自然を楽しんでもらえると嬉しいですね。

まおみ:私も都内に帰ってから、きっと「この鳥の鳴き声なんだろうな?」って意識すると思います。いつもの空間が、自分にとっての“素敵な空間”に変化するのが楽しみです!

まとめ

前編では火山が作り出したむき出しの自然と、唯一無二の自然環境を守るべく活動している方のお話など、幅広くご紹介してきました。

今回様々なスポットを巡る中で感じたのは、三宅島の自然には2つの側面があること。美しい緑は心をリセットし、そして火山が生んだ絶景は人間の心を奮い立たせリブートするパワーを与えてくれました。

火山によってゼロから築き上げられた三宅島。その生命力は自然と人との間を巡り、それが島全体のパワフルさにも繋がっているように感じます。皆さんもぜひ三宅島に行って、“リセット&リブート”の感覚を味わってみてください。

後編では、三宅島の魅力に見出され移住した新たな世代である2名の方をインタビューしました。こちらもぜひご覧ください。

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《執筆:まおみ/撮影・編集:ゆかりごはん》

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