“東京宝島”のひとつ「八丈島」は、羽田空港から55分で着く穴場の南の島。“自分の色を取り戻す、七色の魅力に輝く島”というブランドコンセプトのもと、島の魅力発信に取り組んでいます。

前編では、八丈島のおすすめグルメ情報や温泉スポット、伝統工芸などをたっぷりとご紹介しました!

続く後編では、山の魅力を伝えるべく、アクティビティを中心にレポートします。”島の自然”といえば海をイメージする方も多いと思いますが、八丈島はも見逃せないんです。

見上げて圧巻、登れば絶景。筆者が実際に登った様子もお届けしています。

もちろん登山だけでなく、体力に自信がなくても山の魅力を体感できるスポットもご紹介しています。ぜひ最後まで、美しい風景写真と共にお楽しみください!

東京宝島」とは?
東京都の南に位置する11の有人離島(大島、利島、新島、式根島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島、青ヶ島、父島、母島)の総称。これらの島々には、豊かな自然景観や海洋資源、特産品、歴史・文化などの“宝物”が数多く存在しています。東京都ではこうした“宝物”や隠れた魅力を掘り起こし、一層磨きをかけ、広く発信していくことで、島のブランド化に向けて取り組んでいます。 

海だけじゃない!山も魅力たっぷりの八丈島

八丈島 地図
出典:八丈島観光協会HP

八丈島は、2つの海底火山が噴火によりくっついてできたひょうたん型の島。中央のくびれ部分にある空港の両側に、それぞれ「八丈富士」「三原山」がそびえ立っています。

飛行機で着陸する前から目に入り、自然の迫力を感じられますよ。

この記事では2つの山を中心に、ハイキングやトレッキングにおすすめのスポットや、車で巡りたい観光スポットを紹介します。

八丈富士エリア

⚠️注意点
八丈富士に登る前には、必ず「登山届」を出しましょう。登る直前でもスマホから申請できます。(ふれあい牧場や、登山道の中腹に申請案内があります)

山頂付近は非常に天気が変わりやすく、急に風が強くなることも。またお鉢巡りの道には多くの亀裂や穴があるため、足元が見えない箇所に踏み込むと危険です。遭難や転落防止のため、お鉢巡りは時計回りで無理せず楽しみましょう。

■服装
歩くと暑くなってくるため、脱ぎ着できるよう重ね着が基本です。Tシャツなど薄手のものをベースに、フリースやスウェットを重ね着してください。風が強いため、ウィンドブレーカーは必須です。
ズボンはストレッチが効き、足首まで隠れるものを着用しましょう。

■靴
可能であれば軽登山用の靴が望ましいですが、一般的なスニーカーでも問題ありません。ただし、火口のお鉢巡りは非常に足場が悪いため、足首までカバーする登山靴があると安心です。サンダルなどは絶対NGです!

■その他
トイレや飲み物の調達は、登山口から少し離れた「ふれあい牧場」でのみ可能。登山道にトイレはないため、出発前に必ずお手洗いを済ませておきましょう。また、自動販売機が使えるのは9:30~16:00の間のみです。

ふれあい牧場

ふれあい牧場 八丈小島

八丈富士へ登る前に寄っておきたい「ふれあい牧場」(入場無料)。山肌に広がる草原に、多くの牛たちがのびのびと放牧されています。

車で山道を登りきり、急にパッとひらける絶景はまさに天空。空港の滑走路や三原山、八丈小島、水平線まで一望できます。

ふれあい牧場 牛
▲こんなにも間近で牛を見られることも。
ふれあい牧場 展望台
▲牧場の先には展望台が。
ふれあい牧場 展望台 景色
▲展望台からは八丈島の市街地が一望できる。

「普段の生活と同じ世界線に、こんな空間が存在しているなんて…」と感嘆してしまうほど、静かでのんびりとした時間が流れていますよ。天気の良い日におにぎりと水筒を持って、ぼ〜っとしに来たくなります…。

八丈富士に登る予定がなくても、ぜひ訪れてほしいおすすめスポットです。

八丈島 絶景 人

八丈富士に登る方は「ふれあい牧場」でお手洗いを済ませ、車で2分ほどのところにある登山口へ向かいましょう。

ちなみに、トイレや自動販売機があるスポットはこの牧場が最後。登山する方は水分確保もお忘れなく!

八丈富士トレッキング

八丈富士

美しい富士山型の「八丈富士」

標高は854.3mありますが、山の7合目にあたる「ふれあい牧場」までは車で行けるため、登山初心者さんでも登りやすい山です。

八丈富士 お鉢巡り

目玉はなんといっても、直径約400m、深さ約50mの火口をぐるりと一周できる「お鉢巡り」でしょう。

足場が悪いため注意が必要ですが、自然の威力で形作られた火口と、360℃のパノラマ絶景が堪能できます。

八丈富士 階段

登山口から火口縁にたどり着くまでには、約1,200段の階段があります。ときおり急勾配になるところも多く、休憩を挟みながら登っていきました。

とはいえ、火口縁まではおよそ50分あれば着きます。友人同士の学生グループや、お子様連れの方も元気に登っていましたよ!

八丈富士 カルデラ 火山口

火山口には植物が生い茂っており、なんとも神秘的…。雲がかかっていなければ反対側の岩壁や火口縁がくっきり見えますし、目をこらすと他の登山者が縁を歩いていく様子も見てとれます。

ここから山頂までは15分ほど。亀裂や大きな穴がある狭い道になるため、足元が見えない箇所には踏み込まないようにしましょう。

八丈富士からの景色

「お鉢巡りはちょっと怖いな…」という方でも、この階段さえ乗り越えれば「登ってよかった!」と思える絶景が待っています。

風の音や鳥の声、植物、少しずつ高くなっていく景色の移り変わりなどを楽しみながら、ぜひチャレンジしてみてくださいね。

浅間(せんげん)神社

八丈島 浅間神社
提供:一般社団法人 八丈島観光協会

八丈富士の火口には神社が隠れています。火口縁まで登ったあと、お鉢巡りのルートとは別に火口へ降りていくルートを辿っていくと、「浅間(せんげん)神社」が現れます。

「浅間神社」の近くには、小さな湖も。ほとりで休憩すれば、穏やかな癒しの時間に…!

ただし、こちらは足場が悪く植物も生い茂っているルートです。初めての方はガイドさんに付いてもらい、しっかりと登山用の装備をしていきましょう。

三原山エリア

⚠️注意点
三原山に登る前には、必ず「登山届」を出しましょう。登る直前でも、スマホから申請できます。(唐滝遊歩道駐車場に申請案内があります)

比較的歩きやすい道が多いですが、雨が降った後にはぬかるみ水溜りに注意しましょう!

■服装
歩くと暑くなってくるため、脱ぎ着できるよう重ね着が基本です。Tシャツなど薄手のものをベースに、フリースやスウェットを重ね着してください。風が強いため、ウィンドブレーカーは必須です。
ズボンはストレッチが効き、足首まで隠れるものを着用しましょう。

■靴
可能であれば軽登山用の靴が望ましいですが、一般的なスニーカーでも問題ありません。
サンダルなどは絶対NGです!

■その他
トイレや飲み物の調達は、スタート地点の「観光協会」でのみ可能。登山道にトイレはありません。
小池・大池まで往復すると約5~6時間かかるため、出発前に必ずお手洗いを済ませておきましょう。

三原山 山頂

八丈島 三原山
提供:一般社団法人 八丈島観光協会

八丈島を形づくるもうひとつの山が「三原山」。10万年以上も前に誕生した山です。八丈富士よりゆるやかに見えつつも、頂上の標高は700.9mもあります。(八丈富士は854.3m)

7合目まで車で登れる八丈富士に対し、三原山はふもとの舗装路から登山がスタート!頂上までの歩行距離は片道で約4.5km、歩行時間は約2時間半になります。

長丁場の登山になるため、お手洗いや水分の確保スタート地点の「観光協会」でしっかり済ませてから向かいましょう

三原山の山頂からは、2つの噴火口から成る直径1kmのカルデラが見渡せます。さらに天気がよければ、「青ヶ島」が遠くに見えることも!登山道の尾根道は見晴らしがよく、景色を楽しみながらのんびり・じっくりと登れる山です。

小池・大池

三原山の火口内には、およそ6000年前まで湖があったといいます。その名残が、「小池」「大池」

山頂まで登った後、さらに30分進んだところにあります。往復することも考慮しつつ、体力が残っていればぜひ向かってみてください。

池の周りは非常に静かで、湿地に生息するコケやシダ植物が生い茂り、思わず深呼吸をしたくなるスポットです。

池と言っても、雨が降らなければ「小池」は水が無い状態のことが多いそう。棘のあるツル性植物が多く生えているため、小池には入らないようにご注意を!

硫黄沼・唐滝トレッキング 

山頂に向かう登山ルートとは別に、「硫黄沼・唐滝」を巡れるトレッキングコースがあります。唐滝まで片道70分ほど。「登山はキツいけど、ハイキングならしてみたい!」という方はこちらがおすすめです。

スタート地点はバス停「富次朗商店」で、アクセスがいいのも嬉しいポイント。

八丈島 硫黄沼・唐滝
提供:一般社団法人 八丈島観光協会

バス停から50分ほど進むと、「硫黄沼」が現れます。深い青緑色の静かな沼です。沼の水には硫黄成分が混ざっているそうで、天気や光の当たり具合によって沼の色が変わるんだそう!何度訪れても楽しめるスポットですね。

三原山 唐滝
提供:一般社団法人 八丈島観光協会

硫黄沼からさらに20分ほど進むと、ザーッという音とともに「唐滝」が見えてきます。常時水が流れている滝としては島内最大だそう!

水の落差は36mほどで、これは一般的なマンションでいうとだいたい10~12階くらいの高さ。自然の迫力を目の当たりにできます。

滝の飛沫によって、運が良ければ虹が見えることも!滝の周りには繁茂しているコケが緑色に輝き、写真に収めても美しい光景です。

ドライブしながら立ち寄れる観光スポット!

大坂トンネル

大坂トンネル

天気がいい日を狙って、車で立ち寄りたいのが「大坂トンネル」の展望スポット。トンネル前に車を停められるスペースがあり、こちらの歩道に渡れます。

大坂トンネル 景色

歩道からは、こんなにもひらけた景色が…!美しい富士型の「八丈富士」や黒々とした「南原千畳敷」の海岸、崖が切り立つ「八丈小島」や水平線まできれいに一望できます。

八丈富士 人

八丈島空港から車で向かっても、10分もかからずに到着できる展望台。八丈島の代表的なフォトスポットとしても人気です!

夕暮れ時には、海に沈んでいく美しい夕日も望めますよ。

南原千畳敷

南原千畳敷

先ほどの「大坂トンネル展望台」からも見えた「南原千畳敷」。黒々とした岩場が続く海岸風景が続いています。

ダイナミックな海と、自然の威力を体いっぱいに感じられるスポットです。

南原千畳敷 八丈小島

この黒々とした岩は、かつて八丈富士が噴火した際に海へ流れ出た溶岩。大昔の噴火の威力が自然そのままに残っており、ごつごつとした力強い岩の上を散策できます。

南原千畳敷 夕日

南原千畳敷からは、八丈小島が近くに望めます。日中ももちろん美しいのですが、夕暮れ時には八丈小島に沈んでいく夕日も見られるおすすめスポットです!

空の色が刻一刻と変わっていく様子に、思わずため息が出てしまいます。

南原千畳敷 クジラ
提供:八丈町 東京海洋大学鯨類学研究室

さらに南原千畳敷では、冬季にザトウクジラの目撃情報もあるんだそう。

運が良ければあなたも八丈島の動物に出会えるかも…!

登龍峠

登龍峠

底土港方面にある「登龍峠」。ぐねぐねとした急なカーブを登り切ると、八丈富士や水平線、港が見渡せる展望台(登龍園地)にたどり着きます。

「登龍園地」は新東京百景にも選ばれており、天気がいい日には八丈富士の左側に「八丈小島」、右側遠方に「三宅島」が見えることも!

登龍峠 龍

ちなみに、登龍は「ノボリョウ」と読みます。ぐねぐねとした道をふもとから見上げると龍が昇天するように見えるため、この名がついたそうですよ。

峠の中腹には、こんなに大きな龍の壁画もあります。

急なカーブが続くため、運転にはくれぐれもお気をつけて…!

八丈植物公園&ビジターセンター

八丈ビジターセンター

島のお天気は、刻一刻と変わりゆくのが特徴です。「昨日までは晴れの予定だったのに…」と、急に雨に降られてしまうこともあるでしょう。

そんな八丈島には、雨の日でも楽しめるスポットがたくさんあります

前編で紹介した温泉もおすすめですが、八丈島のことをもっと知るならぜひ「八丈植物公園」「ビジターセンター」にぜひ立ち寄ってみてください。

広大な植物公園では、本土では珍しいガジュマルや、巨大なカナリーヤシなどを見ることができます。温室には南国らしい色鮮やかな花々や、パパイヤ・マンゴーなどの果樹類も。

ビジターセンターの中には、八丈島に生息する鳥や昆虫に関する展示や、クジラの観察情報、八丈島の四季の様子についても知ることができます。さらに、自然発光する「光るキノコ」の展示もありますよ!

八丈島 キョン

そして何と言っても、見どころはこの愛くるしい動物。小さな種類の鹿である、「キョン」に会えるんです!

私のあだ名と同じ名前で、実は昔、テレビで目にしてからずっと気になる存在でした。キョンがいる動物園は全国で数ヶ所しかなく、見られるだけでも大変貴重ですよ!!

小泉きょんとキョン

高い声で「キュウキュウ!」と鳴きながら、キョンたちも近寄ってきてくれました。きょんとキョンのツーショットが撮れて満足です。

ビジターセンター ジェラート屋

ひと通り見て回ったら、ビジターセンター併設のジェラート屋さんでおやつタイム。珍しいフレーバーばかりで悩んでしまいますね…!

私はここで、八丈島特産の「うみかぜ椎茸のジェラート」をいただきました。ぎゅうっと凝縮された椎茸のうま味がガツンと効いている逸品。甘いジェラートを食べているはずなのに、鼻に抜けていく香りは椎茸で、おもしろい味覚体験でした!!

シングル・ダブルと選べるので、ぜひいろいろ食べ比べしてみては??

“新しい歩き方”に気づく「Re:TABI」の取り組み

Re:TABI

八丈島の魅力発信を図るプロジェクト「七色八丈」では、現在「Re:TABI」という取り組みが行われています。「利他」の考えと「旅」、そして「Re:(再生)」。取り組みの中で、行き着いたのは”新しい歩き方”でした。

そこで「七色八丈」では、トラベルオーディオガイドアプリ「ON THE TRIP」にて八丈島の自然スポットで活用できる音声コンテンツを配信

目的なく自然の中を歩きながら、自分の心でさまざまなものを感じとる…。
そんな新しい歩き方を、あなたも体感してみませんか?

ここでは、音声コンテンツを制作した経緯や込められた「利他」の考え、プロジェクト代表・魚谷さんの想いをご紹介します。

魚谷孝之さん

魚谷 孝之(うおたに たかゆき) さん

八丈島在住。2013年に移住し、島らしい酪農を追求。酪農や牛乳・乳製品の製造や開発に従事。
チーズ職人であり、現在は「エンケルとハレ」というブランド名でチーズを製造。島の魅力を図るプロジェクト「七色八丈」にも参画。

「Re:TABI」プロジェクトの誕生

インタビューの様子

ーー今回の「Re:TABI」プロジェクトはどのように誕生したのでしょうか?

東京宝島事業における八丈島のブランドコンセプトは、「自分の色を取り戻す、七色の魅力に輝く島」。そこから「自分の色を取り戻すには、どうしたらいいのか?」と考えた時に、自分の中で行き着いたのが「新しい歩き方」を提案することだったんです。

自分の色を取り戻したい人は、つまり、自分の色を失ってしまっている状態ですよね。きっと毎日の忙しい日々の中で、自分らしさがわからなくなってしまっている。心に余裕がないんです。

余裕を取り戻すためには、立ち止まらないといけなくて。この”立ち止まる”というのが、僕が提案したい「新しい歩き方」です。

Re:TABIプロジェクト活動の様子
▲プロジェクト活動の様子

 ーーそこからなぜ、「山の音声ガイド」を作ることになったんですか?

八丈島は寒くなると閑散期を迎えます。”常春の島”とはいえ冬は寒いし、風も強いし、海水浴やマリンアクティビティはできません。

それで、「海がダメなら、山だ!」と。

冬なら蚊や虫も少ないですし、山登りをしてもそこまで暑くならない。八丈島には熊が生息しておらず、道中も安心です。これまで誰も注目していなかった山の魅力を発信できたらいいな、と思ったのがきっかけですね。

でも、八丈島の山のガイドさんが少ないことに気づいて…。島全体で5人ほどしかいない上に、その方たちの負担になってはいけないなと。それにガイドさんの役割は、危険が伴う登山の本格的なサポートなんですよね。

僕たちは本格的な登山ではなく、簡単に歩ける場所を想定していて。誰もが気軽に行ける山で八丈島の魅力が伝えられたら、と考えたんです。

ーーなるほど。それで、子どもから大人まで歩きやすい「沢の小径(こみち)」を選んだのですね。

はい、そうなんです。他にもいくつか候補はあったものの、メジャーなスポットは外して、あえて島民ですらあまり知らない場所にしてみました。

沢の小径のガイドアプリ

▲沢の小径のガイドアプリ

前編と後編の2部制になっており、沢の入り口・出口付近でそれぞれ再生します。ガイドと言っても道案内や植物などの説明はなく、「どういうふうに歩くか?」を教えてくれるのが特徴。
しゃがんでみたり、音に耳をすませてみたり、植物に触れてみたり…。魚谷さんも、「日常生活ではできないことを沢の小径でしてみることで、失っていた何かに気づける。そういう時に、自分らしさが取り戻せると思うんです」とおっしゃっていました。
入り口で聴く前編のガイドをもとに、自分なりの歩き方を楽しめますよ。

魚谷さんが大切にする”利他”の考えとは?

沢の小径

ーー実際に私も行ってきたのですが、コンパクトな入り口からは想像もできないほどダイナミックな自然が広がっていて驚きました。
ちなみに、
「Re:TABI」の名前の由来にもなっている「利他」の考えとは…?

利他は、利己の逆で、自己中心的ではないことです。

もともと自分の中でそう考えていたものの、ハッキリと確信が持てるものではなくて。それで、利他を勉強されている先生を呼んで勉強会を開いたんですね。

先生がおっしゃっていたのが、「利他とは漏れること」。たとえば大きな木を見上げた時、葉っぱの間から光が漏れていること。木の根もとにある植物は、葉の間から落ちてきた光のおかげで育つけれど、木はそれらの植物のために光を漏らしているのでは無いんです。ただ、光が漏れている。そして漏れた何かを、自分以外の誰かが有効活用する…。

その循環が「利他」の考えなんです。自然の中に入ると、すべてが利他の循環だと気づけるはずです。

利他は「誰かのため」と表現することもありますが、でも究極は、それすらとっぱらうことだと思っていて。「誰かのため」と思った瞬間に、実は利己的になってしまっている。

ーーなるほど…誰かのために働きかけているわけではないけれども、結果的に誰かのためになっている状態、でしょうか?

そうですね。「誰かのためになる」と思ってやっているわけではないんです。

だから今回、音声ガイドの中でも「目的はない」という歩き方を提案していて。自然の中に入って”何か”を感じられるのは、心に余裕が生まれている証拠。そういうものを無意識的にキャッチしていくと、自分の心が満たされている状態になるんです。

僕の中では、心が満たされている状態が豊かさだと考えています。自分が豊かになると、次は自分からも何かが漏れ出るから、他の人に伝播して幸せが広がっていく…。

音声ガイドで「新しい歩き方」を伝えていく

ーー素敵ですね…。実は、ON THE TRIPで八丈島以外の音声コンテンツも聞いてみたんです。でも他はどれも、目の前のものを説明してくれるようないわゆる”ガイド”で…。
「沢の小径」だけ色がちがうな〜と感じていたんですが、魚谷さんの話を聞いていま納得しました。

そうなんですよね。一緒に制作してくれたON THE TRIPさんでも、初めての試みだったそうですよ。

一般的なコンテンツの目的は、お寺や美術館などの補足の説明をしたり、海外からの観光客向けに多言語に翻訳したり。八丈島はまったく異なる形の提案だったにも関わらず、ON THE TRIPさんの社長も「実は利他の旅をやってみたかった!」のだと。

利他の勉強も熱心にしてくださったんですよ。

ーーでもまさに「利他」の理解が難しかったのでは?

はい。自分の中でぼんやりしていた「利他」の考えを、「Re:TABI」のプロジェクトメンバーやON THE TRIPのみなさんにどうやって共有すればいいのか…。難しかったですね。

自分の中での利他の考えと、先生から聞いた話も再確認しつつ、何回もやりとりを重ねながら時間をかけてピントを合わせていきました。

それだけに、音声ガイドができあがった時は、なにより僕ら自身が嬉しかったです。

▲道中出会った神秘的な植物たち

ーーそんな想いを込めた音声ガイドに対し、何か反響はありましたか?

「歩き方が変わった」という声をいただきました。

でも僕はその時、「変わったのでなく、きっと本来の状態に戻ったんですよ」と伝えたんです。「歩く」という漢字は、「少し止まる」と書きますよね。

歩くことは、足を進めて動き続けることではありません。本当は、”少し止まること”なんです。

そういった本来の歩き方を、今回の音声ガイドアプリを通じて伝えられたらと思っています。

ライター後記

沢の小径

八丈島の中之郷地区に、ひっそり存在している「沢の小径」。入り口からどんどん奥に進めば進むほど、壮大に移り変わっていく景色を楽しめました。

目の前いっぱいに広がる力強い自然に、草木の青い香り、静寂にせせらぐ沢や、風に揺すられる葉の音…。五感をフルにはたらかせて歩きたくなる山です。

島民の方でもマイナーだという秘密の森を、あなたも「ON THE TRIP」のガイドとともに散策してみては?

まとめ

前編・後編に分けて、八丈島の魅力をお届けしました。

リゾート地での観光やマリンアクティビティはもちろんのこと、大自然の中でゆったりとした旅も楽しめる八丈島。

日常を切り離せる環境や、穏やかな空気感が居心地よく、ついつい居座ってしまいたくなる島でした。ひとたび足を踏み入れれば、きっともっと、深く入り込みたくなるはず。「気づけば移住していた…!」なんてこともありうるかも?

週末の1泊でも構いません。ぜひ、八丈島へ。この記事に出会ってくれたあなたの背中を、少しでも押せたらいいなと願いを込めて!

【関連記事】

他の島の記事一覧はこちらから

小泉きょん

  • ISE